この総選挙でアベノミクスは格差を広げただけだという主張が盛んにされています。しかしながら、その見方は正しくありません。
1985年以来、世界、特に日本は、アメリカからの圧力を非常に強く受けるようになって来ているからです。
1980年に北米西岸にあるセント・へレンズ山が山体崩壊を起こします。山頂400m程度が一気に吹き飛ばされたのです。
この山は富士山と同じ程度の規模の火山であり、仮に富士山がその山頂400mを吹き飛ばす噴火を起こしたら日本社会はどのような反応を示すかを想像してみてください。関東地域の存続が危機にさらされているといった議論が巻き起こり、大規模な首都移転計画が持ち上がっていったでしょう。
しかし、アメリカではこのセント・へレンズ山の大規模山体崩壊を受けて、あまり危機感は出てこなかったのです。少なくとも一般市民間にはそういった危機感が広がることはありませんでした。しかしながら、実態はかなり異なることがいろいろな面を見ていくと分かります。
1981年、ロナルド・レーガンが大統領に就きます。そして始まったのがレーガノミクスです。これこそが、富裕層減税と政府支出を増やすという政策であり、アメリカ社会の階層化はこの時から組織的に始められていったのです。そして、日本でも、同様な動きが始まります。所得税の課税方法がどんどんと変わっていくのです。実質的に、どんどんと富裕層優遇の方向に改正が何度もされていきました。次にそれを示します。
1974年改正では税率の刻みは19段階であり、最高税率は75%でした。住民税と合わせるとなんと93%の最高税率だったのです。
それが1984年改正で所得税の刻みは15段階になり、最高税率は70%へ、住民税と合わせた最高税率は88%。
1987年改正では、所得税の刻みが12段階で、最高税率60%。住民税と合わせた最高税率は78%。
1988年改正では、所得税の刻みが6段階で、最高税率60%。住民税と合わせた最高税率は76%。
1989年改正では、所得税の刻みが5段階で、最高税率50%。住民税と合わせた最高税率は65%。
1999年改正では、所得税の刻みが4段階で、最高税率37%。住民税と合わせた最高税率は50%。
つまり、1974年時点では所得税と住民税で所得の93%までが課税されていたのです。それが1999年改正では所得税と住民税併せての最高税率が50%にまで軽減されたのです。階層化はこの時期の税制改正が原因であり、アベノミクスとは関係ありません。
なお、これは1億円の収入があった場合、税金で9300万円が持っていかれるという意味ではありません。1億円の収入があっても、例えば300万円までの収入に対して税率が10%なら、1億円の内300万円までは税率10%、つまり、300万円の部分には30万円の税金がかかったということです。
その後も改正が続き、2007年と2015年に階層化を是正する形で変更がされています。
現在の税率は2014年改正で、所得税の刻みが7段階で、最高税率45%。住民税と合わせた最高税率は55%です。
富裕層優遇という意味でよく批判の対象となる株式売却益に対する税率は、実を言うと所得税よりもより富裕層優遇でした。つまり、太平洋戦争後導入された累進性を持った税制が1953年に原則非課税となり、1988年まで非課税が続いたのです。その後も1.05%というほとんど無税と同じような税率が2002年度まで続き、2003年度からは10%になりました。そして、2014年度からは20%です。この推移を見ても、安倍政権下では階層化が是正される方向で税制が見直されてきたと言えます。但し、2014年度改正は直前の民主党野田政権とのすり合わせで行われたものでした。
仮にアベノミクスに伴う適度な円安がなかったら、自動車や家電といった当時の輸出産業の多くが工場を海外へ移し、外貨を稼ぐ力がどんどんと無くなっていき、その結果、今頃はとんでもない円安、つまり、1ドル300円を超えた円安になっていた可能性があるのです。
上の税制についてのデータは「税金格差」梶原一義著 クロスメディア・パブリッシングの63ページ及び75~76ページから取っています。興味深いことに、1974年の税制改正のデータはネット上からは見つけることができませんでした。以前のウィキペデアの所得税のページには1974年の税率が載っていたのですが、それが消えています。
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